社会に出るまでの猶予期間のことを心理学的に言うと「モラトリアム期間」といいます。
そんなモラトリアム期間では様々なことに疑問もつようになり、時には自分を見失いそうになることもあります。
今回はモラトリアム期間の具体的な時期から特徴まで詳しくまとめました。
モラトリアム期間とは?
人間には「モラトリアム期間」という時期があります。動物には存在しません。 そんなモラトリアム期間では自分探しをするようになるのです。「自分ってどういう人間なんだろう?」「なんのために生まれてきたのか?」など少し哲学的なことを考えてしまうようになります。
あなたにも心あたりはありますか? 今回はモラトリアム期間について詳しく解説します。
心理学用語モラトリアムとは
モラトリアムという言葉を日常で耳にすることはありますか? おそらく多くの人はあまりないと思います。では、改めてモラトリアムの意味について見ていきましょう。
本来の言葉の意味
モラトリアムとは本来、支払猶予や返済などの一時停止を表す経済用語でした。なにかを延長させる、何かしらの義務を免除するというニュアンスは変わりありませんが心理的なモラトリアム期間と経済的なそれとではまったく意義が異なります。
大人になるための準備期間
かつて心理学者のエリクソンは「人間は受精してから死ぬまで生涯発達し続ける」と考えました。そしてエリクソンは人生を8つの段階に分けて各段階で達成すべき課題があり、それを克服することで心理的な発達をすると考えました。
8つの段階のうち「青年期」では一貫性のある自己を確立すること(アイデンティティの確立)を課題としています。 そのなかでエリクソンはアイデンティティの確立には社会的な義務や責任から猶予されている期間が必要だと説いています。その期間をモラトリアムと名付けたことで心理学的な意味でのモラトリアム期間が誕生しました。
モラトリアム症候群
エリクソンの言うようにモラトリアムは成長には必要な期間です、しかしそれと同時に”危うい期間”でもあるということでもあるのです。それは自分探しのしすぎで、むしろ自分を失ってしまう。
アイデンティティの拡散と常に隣り合わせということでもあります。拡散症候群が起こると”無気力”や”社会へ帰属することの不安”、”人との関わりを避ける”などの症状が常に続いてしまい、前向きな気持ちになることが難しくなります。
モラトリアム人間
モラトリアム人間とは、精神科医の小此木啓吾が著書「モラトリアム人間の時代」のなかで使用して以来一気に使用されるようになった言葉です。社会的な義務や責任を果たすべき年齢になってもモラトリアム期間から脱却できない。または脱却しない人のことを指します。
本当の自分について考えすぎて、肝心の行動や決断できない。などの理由によりズルズルと長期化してしまう人もいれば、社会に帰属することに不安を感じて猶予期間にとどまり続ける人もいます。
モラトリアム期間とは
具体的にモラトリアム期間とはいつごろを指すのでしょうか? 昔と今とで使われ方も異なっているようです。
大人になる前の青年期
モラトリアムという言葉が心理学用語として使われだした頃はモラトリアムは12~22歳頃までの、思春期から大学卒業くらいまでと考えられていました。大人になるまでの準備期間という固定化された見方がされていました。
しかし現代ではその実態は大きく変わっています。どう変わっているのでしょうか?
現代のモラトリアム期間
国や地域によって異なりますが、現代では大学進学率の増加、晩婚化の影響でモラトリアム期間が長期化しています。さらに、情報化や栄養食の普及で、早期化もしているので、二重の要因でモラトリアム期間は長期化していると言えます。
また、現代の青年は自分のことについてゆっくり考える時間がなく、モラトリアムが形骸化しているという意見もあります。高校時代、大学時代も勉強や部活で忙しく自分について考える暇がないという逆の問題もあるようです。
日本におけるモラトリアム期間
日本におけるモラトリアム期間は18~22、27歳までの期間。つまり大学、大学院の卒業までとされるのが一般的です。
しかしモラトリアム期間については意見が分かれていて、絶対に18歳からということではなく、経済的な自立をしているかで決まる事が多いので個人差があるものだと考えておきましょう。
状態を表すモラトリアム期間
かつてのモラトリアム期間では明確な年齢を示すような場合が多かったのですが、現代のモラトリアム期間は多様化しており、何歳から何歳までと決めるのではなく、猶予されている「状態を表す用語」として使われるようになりました。
モラトリアム期間に起きる特徴3つ
モラトリアム期間は人生において特殊な期間です。それゆえに特徴的な行動や思考をもつようになります。
自分の進むべき道を決められない
モラトリアム期間は責任や義務がありません。だからいろんなことにチャレンジできるし、若いからこそ可能性もたくさん秘めています。しかし、だからこそ「理想の自分」に執着してしまいます。
そうなると「本当にこの進路でいいのか?」「いや、俺の居場所はここじゃない」といつまでも生き方を選択できずに年齢だけが重なっていきます。
自由であることが逆に行動を抑制しているのです。なのでまずは行動してみて、そこから微調整して少しづつ軌道修正してみる。それくらいの心持ちのほうがいいのかもしれません。
ありのままの自分を受け入れない
モラトリアム期間に一貫してあるのは、「自分探し」です。自分が思い描く未来、こうありたい。ああなりたい。といった願望。それはただの夢で終わるのではなく、本当に実現させようとしています。だから自分は何なのか、どこに進むべきか、本気で悩み葛藤するのです。
しかし残念ながら人は平等ではありません。自分の容姿や能力、生まれや環境によって諦めなければならないことも時にはあります。しかしモラトリアム期間では理想を持って模索している真っ最中ですので、客観視することができずそんな自分を受け入れられないのです。
そんなときには色んな人と関わることが大事です。たくさんの人と関わることで自分の思わぬ長所が見つかったり、短所と思っていたことは実際には大したことがなかったと気づくことができます。
他人との接触を避ける
本当の自分を見つけるということは、誰にもない自分だけの何かを手に入れるということでもあります。モラトリアム期間では、他人と親密になると自分が飲み込まれてしまうような感覚を抱きます。
社会や常識というもの、みんなと同じということを嫌います。しかしあまりにもこのようなことが長期化すると社会への再適応ができなくなっていきます。モラトリアム期間からのこじれで精神的な疾患を抱えてしまうというケースは少なくありません。
モラトリアム期間に取り組むべきこと
ここまで少しネガティブなことを書いていきましたが、それでもモラトリアム期間は必要なのです。有意義に過ごすことができればしっかりとしたアイデンティティの土台になるからです。 では具体的にどんなことをしたら良いでしょうか?
他者とのかかわりを持つ
モラトリアム期間では、どちらかというと自分の内側で自分と対話しているような感覚ですが、それではどうしても偏った見方や考えになってしまいがちです。そこでモラトリアムというフットワークの軽さを活かしてさまざまな人とかかわりを持つようにしてみると良いです。
人と出会うのは一番の刺激になります。きっと自分の将来を検討するうえで良い材料になってくれるはずです。まずは、自分の趣味を思い切り楽しんでみましょう。
ただ、一人で完結させるのではなくその趣味を共有してみましょう。友人でもいいしSNSなどでも良いので他の人と関わりをもちましょう。
自分でモラトリアム期間を決める
自分の人生について考える時間は必要です。生き方について悩んだ経験が素晴らしい未来の起点になるからです。しかしずっと悩んでいるわけには行きません。
いつまで自分について模索し続けるか意識的に期限を決めておくことでより有意義な期間にすることができるでしょう。大学生などの場合は卒業までというのが一つの区切りになっていると思います。
学生じゃない人なら、なにかのイベントごとなどをひとつの区切りにするなどして長期化、常態化することを自身で未然に防ぐのが大切です。
自分探しをしすぎない
モラトリアム期間は必要な期間ですが、深みにはまると抜け出せなくなります。 長期化すると社会復帰が難しくなります。これは筆者の想像ですが、ずっと未来のことを考え続けるのは楽しくないんじゃないかと思います。不安にもなると思います。
本当の自分にこだわりすぎずに、目の前でいま起きていることやるべきことに目を向けてみましょう。「今」に焦点をあてて行動することで毎日がとても充実したものになって前向きな気持ちになることができます。
「今」が充実していればきっと未来も充実します。もちろん未来について悩むことも必要ですけどね!
モラトリアムは自分にとって大切な期間
「今」があって「未来」があるし過去があって自分がいる。 ならば、「今」充実させれば良い未来になるに決まっていますね。そしてそれは過去になって自分を作ります! 大切なことは結構シンプルです。身近なものに目を向けてみましょう。